徒然日記&萌えの素を紹介。
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以下本文です。
墨を零したような、どころではない全くの闇。
どこまでも黒く星さえ見えない場所で、コナンはまどろんでいた。
うとうとと浮き沈みを繰り返しながら、ゆっくりと記憶を辿る。
確か、数刻前までは、高木刑事達と一緒に事件を追っていたはずだった。
それが何故こんな闇の中にいるのか、何故こんなにも意識が混濁しているのか、疑問に思いながらも眠気には勝てず、コナンはその誘惑に身をゆだねた。
僅かに、身体が揺れた気がして、コナンは眠りの淵から顔を出した。
それでも覚醒はせず、ゆるゆるとした思考で周囲の様子を探る。
この場所の雰囲気は、何処か寝台車に似ていた。
不意に、衣擦れの音と話し声がして、耳をそばだてる。
その声を明確に認識した途端、コナンの心臓が跳ね起きた。
「とうとう、この時が来たか。ずいぶん待ったな」
―――ジン!
間違えようもない低いその声が、すぐ傍で聞こえた。
工藤新一に怪しげな薬を飲ませ、この小学生の姿にした、あの黒ずくめの男。
恐らくは、何人もヒトを殺してきた、冷たい目をした悪の組織の一員。
その男の声が至近距離から、はっきりと聞こえた。
コナンは、起きたことに気付かれないよう、ひっそりと目蓋を押し上げたが、こうも真っ暗では何も見えない。
自分の指先さえ、捉えることが出来なかった。
「ガキだと思って油断するんじゃねーぞ、そいつは手強い敵だ」
「はい、兄貴」
ニヤリとジンが笑った気配がする。
どうやら、近くにウォッカもいるらしい。サングラスをかけた、厳つい男の顔が目に浮かぶ。
コナンから二人がどれだけ離れた位置にいるのかは分からないが、コナンはこの闇に乗じて、逃走する道を選んだ。
これだけ自分が何も見えないのだ。相手も自分の正確な位置はつかめまい。
そろそろと身体を起こそうとして、コナンは漸く気付いた。
何かに身体を拘束されていて、身動きが全くとれない。
しかも暗くて、拘束しているものが何かも分からなかった。
唯一の救いは、それが無骨な男の腕や手ではなく、柔らかな感触をしている事か。
「タイミングを合わせろ。ぬかるなよ」
「分かりやした!任せてください」
どんっと何か堅いものを叩く音がする。
次の瞬間―――。
『パンパカパーン!!!!!』
という、この場の雰囲気とは全く正反対の軽快でリズミカルな音楽が辺りに響き渡った。
それと同時に、コナンを覆っていた暗闇が唐突に晴れた。
眩しいライトの渦の中に放り出されて、眩暈がする。
チカチカする視界を回復させるために、コナンはきつく目を瞑った。
「さあ、追いかけっこの始まりだ」
ニヒルなジンの声が、いつの間にか変化している。
―――信じられないことに・・・どことなく陽気でハイテンションだ。
鋭い眼つきはそのままだったが、口元に笑みすら浮かんでいる。
そのギャップが、激しく不気味だ。
この時に至って、コナンは漸く状況を、思い出した―――。
ここは、コナンシリーズ10個目の映画を撮影しているスタジオだということを。
すなわち、あの陽気なジンが地・・・なのだ。
コナンが自分の身体を見下ろすと、その身を暗幕が包んでいた。
どうやら、コナンはその中で寝ていたようだ。
身動きは、まだ取れない。コナンは仕方なく寝転んだまま、辺りを見回した。
場所は、スタジオ内のちょうどステージになっているところで、下から映画の出演者がステージを見上げているのが目に入る。
目が慣れてきて、ライトの照っているステージの中央に目を戻すと、ジンが仁王立ちで立っていた。
腰に手をあてて、ポーズは完璧。左手にはマイマイク。
「今日の撮影は終わった。明日はオフだ。休みだ。すなわち、ここにいるコナン王子とディトが出来るのだ」
フフフとジンが怪しげに笑う。
「おまえら、コナン王子とデートがしたいかーーー!!!」
ウォッカが拳を振り上げて高らかに叫んだ。
うおぉーという歓声が出演者たちから上がる。
その中でも馬鹿でかい声で「クドウとデートやー!!」と騒いでいる黒い男を、コナンはあえて見ないフリをした。
「では、これを見よ」
ジンが身体をモデル立ちにして、ステージの奥を振り返る。
巨大なパネルが頭上から降ってきた。
適当な場所で停止すると、パッと画面に地図らしきものが移る。迷路のようだ。
「目的地は、ここ。P地点だ。ここにある宝を手に入れたものが、明日コナン王子を独り占めすることが出来る」
きゃーーっと、今度は黄色い声が上がった。
「ただし!」
ウォッカが声を張り上げた。ジンが続ける。
「我々、黒の組織がおまえたちの進路の邪魔をする。制限時間は一時間だ。我々が護りきったら、そのディト権は俺たちのものになる!!!」
ジンが力強く言い終わると、今度はブーイングが上がった。
「反則はなしだ。あとハンデとして、ガキどもを先にスタートさせる」
「歩美頑張る!コナン君と一緒に遊びたいもん!」
「待ってて下さいね。コナン君。きっと君を魔の手から助け出してみせます!」
「なあなあ、宝って何だろな?」
馴染みの声が聞こえてきて、コナンは力が抜けた。
怪我だけはしないように、気をつけて欲しいところだ。
ふと、スタート地点にいる灰原と目があった。
彼女は、同情しているような、面白がっているような意味深な目でコナンを見ると、駆け出した少年探偵団の後を追った。
大丈夫だ。多分、彼女が少年達のフォローをしてくれるだろう。
少年探偵団は、ダンボールで出来たトンネル(?)の中に消えていった。
「では、10分後にスタートだ。合図はウォッカが出す。せいぜい足掻くんだな」
ジンは悪役を気取ってステージから去っていった。
どうやら、先回りする気らしい。
他の参加者たちも、ぞろぞろと移動し始めた。
ステージの近くから人がいなくなり始めたころ、もぞっとコナンが包まれている暗幕が動いた。
吃驚して振り向くと、至近距離にベルモットとジョディがいた。
コナンが口を開きかけると、ベルモットがシーっと指を唇にあてる。
蠱惑的な微笑を浮かべながら、二人はコナンを暗幕から助け出した。
コナンたちはステージの上に立ち上がり、相対した。
「もしかして、僕を拘束していたのは・・・」
「ええ、私たちよ。ウォッカが貴方を抱いている案に断固反対したの」
「あんなムサいのより、私たちのほうが良いでしょ?」
にっこりと金髪の美女でナイスボディの二人に迫られて、コナンはステージから落っこちそうになった。
また、ある事実に気付いて赤面する。
つまり、柔らかいと思ったのは、彼女達の―――。
「クールガイ」
ベルモットに呼ばれて顔を上げると、彼女は楽しそうに笑っていた。
「ここにいて良いの?」
「はい?」
「そうよ。自分の身は自分で護らなきゃ」
ジョディが悪戯っぽく言った。
「貴方は、そういうタイプよね。たださらわれるのを甘んじて受けはしないでしょ?」
「黙って見てるつもりは、ないんでしょう?」
コナンは一瞬唖然として、固まった。そして、にっと笑う。
「もちろん、そのつもりでした。でも良いんですか?僕を逃がして?」
ことりと首を傾げて問いかけると、二人はきゃらきゃらと笑った。
「貴方、自分の身がピンチなのに、私たちの心配?」
「出来すぎよ~。」
「でも、心配しなくて大丈夫。君を捕まえておけだなんて言われていないわ」
「そうそう。ジンが言ったのは、眠った君に添い寝しとけってことだけ」
「役得だったわ。可愛くて思わずキスしちゃった」
今度こそ、コナンは絶句した。こんなとき女性の強かさを実感する気がする。
「ほら、早く行かないと時間がなくなるわよ」
「あ、待って私もキスしたい!」
―――コナンは慌ててその場から逃げ出したのだった。
スタジオがある敷地内は、とにかく広い。
スタジオや倉庫などの建物が立ち並び、その中でさえも撮影のセットのみならず、食堂、宿舎、それに撮影に使う大きな特殊機械が入り乱れ、一種の迷路を形成していた。
しかし、コナンは一度ステージの上で見た地図を頭の中に思い描き、着実に最短距離を通って目的地に到達したのだった。
P地点。そこは、スタート地点から数キロ離れた場所で、なにやら倉庫のようだ。
中に入ると、やはり倉庫特有の埃っぽい匂いがした。
コナンはダンボールや衣装箱などの障害物をよけ、奥へと進む。
窓から日の光が降り注ぎ、道行は充分明るかった。
一番奥にたどり着くと、コナンは物陰から慎重に顔をだした。
やっぱり・・・。
そこには、ジンが鋭い目を鷹のように光らせて、仁王立ちしていた。
どうしようかと考えて、コナンは正面から出て行くことにした。
自分には、阿笠博士の作ってくれた秘密兵器のごとき、メカがある。
コナンはするりと箱の影から飛び出した。
「ジン!!」
機先を制し、コナンは勢いよくジンに向かっていく。
対してジンは、アサシンらしくない様相を呈していた。
「やや!コナン王子何故ここに!?」
鋭いはずの切れ長の眼をまん丸にして、心底驚いたようだ。
ウォッカが居たら、100年の愛・・・じゃなかった尊敬も信頼も消滅しそうな顔である。
「賞品が自ら出歩かれては困るぞ!」
口を尖らせて文句をたれるその顔も、見方を変えれば可愛い・・・かもしれない。
「うっせー!!黙ってお宝寄越しやがれ!!」
コナンはそんなジンの可笑しさに構わずに、ジンの背後にある台座へと突っ込んでいく。
「自分の休日くれー、自分で決める!」
と。威勢良く叫んだコナンだったが、台座に据えられているお宝を見て、思わず絶句した。
「ま、まさかそれが今回のお宝ってんじゃ・・・?」
指差す手が震えている。ついでに唇の端もワナワナと震えていたりする。
「その通りだ、コナン王子。これこそが至宝の―――」
「って!ただのぷっ●んプリンじゃねーかーーーー!!!!」
そのコナンの雄叫びは100キロ四方に響き渡ったという・・・。(後日談)
ぜえぜえと肩で息をしながらも、コナンは勇ましくジンに向き直った。
ぷっちんだかプリンだか知らないが、アレには自分の自由がかかっているのだ。
どんなに馬鹿らしくても奪還せねばなるまい。
「ふっ・・・。どうやら本気のようだな」
ジンが悪役のような台詞を吐きながら、懐から銃を取り出した。
辺りに緊張した空気が漂う。
「今宵のBB弾は一味違うぞ?」
左手にワルサーのモデルガンを構え、右手でぷっ●んを捧げ持ちながら、ジンは嫌味たっぷりに言い切った。
コナンも一歩後ろに下がり、付け入る隙を窺う。
そろそろと、右手を腕時計に這わせて行った。
互いに牽制しあい、緊張が一本の線のように研ぎ澄まされ、高まっていく。
そしてそれがピークに達した時、事態は動いた―――。
パシュッっと軽い発射音が聞こえたと同時に、ジンの手にあったぷっ●んプリンが弾き飛ばされる。
コナンは咄嗟に、自分の方に飛んできたそれをキャッチした。
「あ。」
「や・・・」
「あーーー!!??」
「やったぁーーー!!!」
ジンが失望の叫びを上げるのを尻目に、コナンは高々とガッツポーズした。
地面に刺さったトランプを一瞥してから、窓を見上げる。
そこには思い描いた通りの、白い姿があった。
「KID。」
コナンが呼びかけると、キッドはふわりと舞い降りてきた。
にっと笑うキッドに、コナンもにやりと笑う。
「ほらよ」
と眼前にグラスのような器とスプーンを出されて、少し戸惑う。
「ほら、アイツが正気に戻る前に早くぷっちんして食っちまいな」
ぱちんっとウインク付きで促がされた。
コナンはチラッと横目で項垂れているジンを見遣ると、すぐさまぷっちんした。
まさか、この後キッドと「ハイ、アーン」をヤリました、とは誰にも言えやしない・・・。
お宝争奪イベント終了の全館内放送が流れ、出演者達が続々と戻って来た。
意気消沈したジンの代わりに、ウォッカが司会する。
「これで、今回のお宝争奪戦は終了しやす」
ブーブーとブーイングと野次が飛ぶ。
最前列で涙をちょちょぎらせて「くどうーーー!!」と叫ぶ黒いのを、コナンはまた見ないフリをした。
「さて、お宝をゲットした勝者のコナン王子。貴方は明日の休みをどう過ごしますか?」
出演者達が目をキラキラさせて、コナンを見ている。
彼らの興味は、誰と過ごすか、だろう。
コナンはその視線から逃れるように目を瞑ると、
「明日は、ウチで読書します!」
と、高らかに宣言したのである。
* * * * * * *
こっそりと楽屋を出ようと一歩を踏み出すと同時に、肩をたたかれて、新一は飛び上がった。
涙目になりながら振り返ると、そこには衣装を脱いだ怪盗の姿があった。
「よっ!」
軽く挨拶されて、眩暈がする。
「かいと~~おどかすなよな!」
「わりーわりー。そんな吃驚するとは思わなかったからさ」
朗らかに笑われて、新一も苦笑する。
「変身・・・大丈夫だったか、新一」
笑ったかと思えば、心配げに顔を覗きこんできたりして快斗は忙しい男だ。
「大丈夫だって」
新一は笑って、手を振った。
―――江戸川コナンと工藤新一は同一人物である。
そして、それは新一の特異体質のためである。
ということを知っているのは、現在のところ両親と、同じ待遇の灰原、隣人の阿笠博士。そして、黒羽快斗だけだった。
否、覗きによってバレた黒い関西人がいる。
・・・実名ドラマ『名探偵コナン』の脚本兼監督の青山さんにも、バレているのかもしれない。
ゲスト出演を請われたし。
それはともかく。
つまり新一は、小学生の姿に変身し、役者として『名探偵コナン』などのドラマなどに出演しているのだ。
そして、オフの時は本来の姿、工藤新一に戻ってプライベートな生活をしているのである。
「でも、明日のオフ潰れずにすんで良かったよな~」
「あぁ。快斗のおかげだな」
新一は快斗の横に並び、スタジオの出入り口に向かいながら相槌を打つ。
すると、快斗がにんまりと笑った。
こういう時のコイツは、大概新一に取って良くないことを考えている。
「折角の休みだもんな。これで気兼ねなくヤレるぜv」
「・・・は?」
「撮影中で溜まってるから、覚悟しろよ?新一クン」
意味を理解した瞬間、新一の顔から血の気が引いた。
無駄だと、頭のどこかで分かっていながらも、反論する。
「オレ、明日は読書する予定で・・・」
「誰のおかげでぷっちんゲット出来たんだっけ?」
語尾は疑問系なのに、ちっとも新一の答えは聞いていない。威圧感があり過ぎる。
こんな快斗に、今まで新一は勝てたことがない。
「か、かい・・・」
「さvそーと決まったら、時間が勿体ねーや。早く帰ろーぜ!」
ウキウキと自分の手を引っ張る快斗に、ろくな抵抗も出来ぬまま、新一は工藤邸の自分のベッドに早々とエスコートされてしまった。
休日は、恋人とラブラブで過ごしましょう、というお話。
プリン(ス)争奪戦!これにて終幕。
どこまでも黒く星さえ見えない場所で、コナンはまどろんでいた。
うとうとと浮き沈みを繰り返しながら、ゆっくりと記憶を辿る。
確か、数刻前までは、高木刑事達と一緒に事件を追っていたはずだった。
それが何故こんな闇の中にいるのか、何故こんなにも意識が混濁しているのか、疑問に思いながらも眠気には勝てず、コナンはその誘惑に身をゆだねた。
僅かに、身体が揺れた気がして、コナンは眠りの淵から顔を出した。
それでも覚醒はせず、ゆるゆるとした思考で周囲の様子を探る。
この場所の雰囲気は、何処か寝台車に似ていた。
不意に、衣擦れの音と話し声がして、耳をそばだてる。
その声を明確に認識した途端、コナンの心臓が跳ね起きた。
「とうとう、この時が来たか。ずいぶん待ったな」
―――ジン!
間違えようもない低いその声が、すぐ傍で聞こえた。
工藤新一に怪しげな薬を飲ませ、この小学生の姿にした、あの黒ずくめの男。
恐らくは、何人もヒトを殺してきた、冷たい目をした悪の組織の一員。
その男の声が至近距離から、はっきりと聞こえた。
コナンは、起きたことに気付かれないよう、ひっそりと目蓋を押し上げたが、こうも真っ暗では何も見えない。
自分の指先さえ、捉えることが出来なかった。
「ガキだと思って油断するんじゃねーぞ、そいつは手強い敵だ」
「はい、兄貴」
ニヤリとジンが笑った気配がする。
どうやら、近くにウォッカもいるらしい。サングラスをかけた、厳つい男の顔が目に浮かぶ。
コナンから二人がどれだけ離れた位置にいるのかは分からないが、コナンはこの闇に乗じて、逃走する道を選んだ。
これだけ自分が何も見えないのだ。相手も自分の正確な位置はつかめまい。
そろそろと身体を起こそうとして、コナンは漸く気付いた。
何かに身体を拘束されていて、身動きが全くとれない。
しかも暗くて、拘束しているものが何かも分からなかった。
唯一の救いは、それが無骨な男の腕や手ではなく、柔らかな感触をしている事か。
「タイミングを合わせろ。ぬかるなよ」
「分かりやした!任せてください」
どんっと何か堅いものを叩く音がする。
次の瞬間―――。
『パンパカパーン!!!!!』
という、この場の雰囲気とは全く正反対の軽快でリズミカルな音楽が辺りに響き渡った。
それと同時に、コナンを覆っていた暗闇が唐突に晴れた。
眩しいライトの渦の中に放り出されて、眩暈がする。
チカチカする視界を回復させるために、コナンはきつく目を瞑った。
「さあ、追いかけっこの始まりだ」
ニヒルなジンの声が、いつの間にか変化している。
―――信じられないことに・・・どことなく陽気でハイテンションだ。
鋭い眼つきはそのままだったが、口元に笑みすら浮かんでいる。
そのギャップが、激しく不気味だ。
この時に至って、コナンは漸く状況を、思い出した―――。
ここは、コナンシリーズ10個目の映画を撮影しているスタジオだということを。
すなわち、あの陽気なジンが地・・・なのだ。
コナンが自分の身体を見下ろすと、その身を暗幕が包んでいた。
どうやら、コナンはその中で寝ていたようだ。
身動きは、まだ取れない。コナンは仕方なく寝転んだまま、辺りを見回した。
場所は、スタジオ内のちょうどステージになっているところで、下から映画の出演者がステージを見上げているのが目に入る。
目が慣れてきて、ライトの照っているステージの中央に目を戻すと、ジンが仁王立ちで立っていた。
腰に手をあてて、ポーズは完璧。左手にはマイマイク。
「今日の撮影は終わった。明日はオフだ。休みだ。すなわち、ここにいるコナン王子とディトが出来るのだ」
フフフとジンが怪しげに笑う。
「おまえら、コナン王子とデートがしたいかーーー!!!」
ウォッカが拳を振り上げて高らかに叫んだ。
うおぉーという歓声が出演者たちから上がる。
その中でも馬鹿でかい声で「クドウとデートやー!!」と騒いでいる黒い男を、コナンはあえて見ないフリをした。
「では、これを見よ」
ジンが身体をモデル立ちにして、ステージの奥を振り返る。
巨大なパネルが頭上から降ってきた。
適当な場所で停止すると、パッと画面に地図らしきものが移る。迷路のようだ。
「目的地は、ここ。P地点だ。ここにある宝を手に入れたものが、明日コナン王子を独り占めすることが出来る」
きゃーーっと、今度は黄色い声が上がった。
「ただし!」
ウォッカが声を張り上げた。ジンが続ける。
「我々、黒の組織がおまえたちの進路の邪魔をする。制限時間は一時間だ。我々が護りきったら、そのディト権は俺たちのものになる!!!」
ジンが力強く言い終わると、今度はブーイングが上がった。
「反則はなしだ。あとハンデとして、ガキどもを先にスタートさせる」
「歩美頑張る!コナン君と一緒に遊びたいもん!」
「待ってて下さいね。コナン君。きっと君を魔の手から助け出してみせます!」
「なあなあ、宝って何だろな?」
馴染みの声が聞こえてきて、コナンは力が抜けた。
怪我だけはしないように、気をつけて欲しいところだ。
ふと、スタート地点にいる灰原と目があった。
彼女は、同情しているような、面白がっているような意味深な目でコナンを見ると、駆け出した少年探偵団の後を追った。
大丈夫だ。多分、彼女が少年達のフォローをしてくれるだろう。
少年探偵団は、ダンボールで出来たトンネル(?)の中に消えていった。
「では、10分後にスタートだ。合図はウォッカが出す。せいぜい足掻くんだな」
ジンは悪役を気取ってステージから去っていった。
どうやら、先回りする気らしい。
他の参加者たちも、ぞろぞろと移動し始めた。
ステージの近くから人がいなくなり始めたころ、もぞっとコナンが包まれている暗幕が動いた。
吃驚して振り向くと、至近距離にベルモットとジョディがいた。
コナンが口を開きかけると、ベルモットがシーっと指を唇にあてる。
蠱惑的な微笑を浮かべながら、二人はコナンを暗幕から助け出した。
コナンたちはステージの上に立ち上がり、相対した。
「もしかして、僕を拘束していたのは・・・」
「ええ、私たちよ。ウォッカが貴方を抱いている案に断固反対したの」
「あんなムサいのより、私たちのほうが良いでしょ?」
にっこりと金髪の美女でナイスボディの二人に迫られて、コナンはステージから落っこちそうになった。
また、ある事実に気付いて赤面する。
つまり、柔らかいと思ったのは、彼女達の―――。
「クールガイ」
ベルモットに呼ばれて顔を上げると、彼女は楽しそうに笑っていた。
「ここにいて良いの?」
「はい?」
「そうよ。自分の身は自分で護らなきゃ」
ジョディが悪戯っぽく言った。
「貴方は、そういうタイプよね。たださらわれるのを甘んじて受けはしないでしょ?」
「黙って見てるつもりは、ないんでしょう?」
コナンは一瞬唖然として、固まった。そして、にっと笑う。
「もちろん、そのつもりでした。でも良いんですか?僕を逃がして?」
ことりと首を傾げて問いかけると、二人はきゃらきゃらと笑った。
「貴方、自分の身がピンチなのに、私たちの心配?」
「出来すぎよ~。」
「でも、心配しなくて大丈夫。君を捕まえておけだなんて言われていないわ」
「そうそう。ジンが言ったのは、眠った君に添い寝しとけってことだけ」
「役得だったわ。可愛くて思わずキスしちゃった」
今度こそ、コナンは絶句した。こんなとき女性の強かさを実感する気がする。
「ほら、早く行かないと時間がなくなるわよ」
「あ、待って私もキスしたい!」
―――コナンは慌ててその場から逃げ出したのだった。
スタジオがある敷地内は、とにかく広い。
スタジオや倉庫などの建物が立ち並び、その中でさえも撮影のセットのみならず、食堂、宿舎、それに撮影に使う大きな特殊機械が入り乱れ、一種の迷路を形成していた。
しかし、コナンは一度ステージの上で見た地図を頭の中に思い描き、着実に最短距離を通って目的地に到達したのだった。
P地点。そこは、スタート地点から数キロ離れた場所で、なにやら倉庫のようだ。
中に入ると、やはり倉庫特有の埃っぽい匂いがした。
コナンはダンボールや衣装箱などの障害物をよけ、奥へと進む。
窓から日の光が降り注ぎ、道行は充分明るかった。
一番奥にたどり着くと、コナンは物陰から慎重に顔をだした。
やっぱり・・・。
そこには、ジンが鋭い目を鷹のように光らせて、仁王立ちしていた。
どうしようかと考えて、コナンは正面から出て行くことにした。
自分には、阿笠博士の作ってくれた秘密兵器のごとき、メカがある。
コナンはするりと箱の影から飛び出した。
「ジン!!」
機先を制し、コナンは勢いよくジンに向かっていく。
対してジンは、アサシンらしくない様相を呈していた。
「やや!コナン王子何故ここに!?」
鋭いはずの切れ長の眼をまん丸にして、心底驚いたようだ。
ウォッカが居たら、100年の愛・・・じゃなかった尊敬も信頼も消滅しそうな顔である。
「賞品が自ら出歩かれては困るぞ!」
口を尖らせて文句をたれるその顔も、見方を変えれば可愛い・・・かもしれない。
「うっせー!!黙ってお宝寄越しやがれ!!」
コナンはそんなジンの可笑しさに構わずに、ジンの背後にある台座へと突っ込んでいく。
「自分の休日くれー、自分で決める!」
と。威勢良く叫んだコナンだったが、台座に据えられているお宝を見て、思わず絶句した。
「ま、まさかそれが今回のお宝ってんじゃ・・・?」
指差す手が震えている。ついでに唇の端もワナワナと震えていたりする。
「その通りだ、コナン王子。これこそが至宝の―――」
「って!ただのぷっ●んプリンじゃねーかーーーー!!!!」
そのコナンの雄叫びは100キロ四方に響き渡ったという・・・。(後日談)
ぜえぜえと肩で息をしながらも、コナンは勇ましくジンに向き直った。
ぷっちんだかプリンだか知らないが、アレには自分の自由がかかっているのだ。
どんなに馬鹿らしくても奪還せねばなるまい。
「ふっ・・・。どうやら本気のようだな」
ジンが悪役のような台詞を吐きながら、懐から銃を取り出した。
辺りに緊張した空気が漂う。
「今宵のBB弾は一味違うぞ?」
左手にワルサーのモデルガンを構え、右手でぷっ●んを捧げ持ちながら、ジンは嫌味たっぷりに言い切った。
コナンも一歩後ろに下がり、付け入る隙を窺う。
そろそろと、右手を腕時計に這わせて行った。
互いに牽制しあい、緊張が一本の線のように研ぎ澄まされ、高まっていく。
そしてそれがピークに達した時、事態は動いた―――。
パシュッっと軽い発射音が聞こえたと同時に、ジンの手にあったぷっ●んプリンが弾き飛ばされる。
コナンは咄嗟に、自分の方に飛んできたそれをキャッチした。
「あ。」
「や・・・」
「あーーー!!??」
「やったぁーーー!!!」
ジンが失望の叫びを上げるのを尻目に、コナンは高々とガッツポーズした。
地面に刺さったトランプを一瞥してから、窓を見上げる。
そこには思い描いた通りの、白い姿があった。
「KID。」
コナンが呼びかけると、キッドはふわりと舞い降りてきた。
にっと笑うキッドに、コナンもにやりと笑う。
「ほらよ」
と眼前にグラスのような器とスプーンを出されて、少し戸惑う。
「ほら、アイツが正気に戻る前に早くぷっちんして食っちまいな」
ぱちんっとウインク付きで促がされた。
コナンはチラッと横目で項垂れているジンを見遣ると、すぐさまぷっちんした。
まさか、この後キッドと「ハイ、アーン」をヤリました、とは誰にも言えやしない・・・。
お宝争奪イベント終了の全館内放送が流れ、出演者達が続々と戻って来た。
意気消沈したジンの代わりに、ウォッカが司会する。
「これで、今回のお宝争奪戦は終了しやす」
ブーブーとブーイングと野次が飛ぶ。
最前列で涙をちょちょぎらせて「くどうーーー!!」と叫ぶ黒いのを、コナンはまた見ないフリをした。
「さて、お宝をゲットした勝者のコナン王子。貴方は明日の休みをどう過ごしますか?」
出演者達が目をキラキラさせて、コナンを見ている。
彼らの興味は、誰と過ごすか、だろう。
コナンはその視線から逃れるように目を瞑ると、
「明日は、ウチで読書します!」
と、高らかに宣言したのである。
* * * * * * *
こっそりと楽屋を出ようと一歩を踏み出すと同時に、肩をたたかれて、新一は飛び上がった。
涙目になりながら振り返ると、そこには衣装を脱いだ怪盗の姿があった。
「よっ!」
軽く挨拶されて、眩暈がする。
「かいと~~おどかすなよな!」
「わりーわりー。そんな吃驚するとは思わなかったからさ」
朗らかに笑われて、新一も苦笑する。
「変身・・・大丈夫だったか、新一」
笑ったかと思えば、心配げに顔を覗きこんできたりして快斗は忙しい男だ。
「大丈夫だって」
新一は笑って、手を振った。
―――江戸川コナンと工藤新一は同一人物である。
そして、それは新一の特異体質のためである。
ということを知っているのは、現在のところ両親と、同じ待遇の灰原、隣人の阿笠博士。そして、黒羽快斗だけだった。
否、覗きによってバレた黒い関西人がいる。
・・・実名ドラマ『名探偵コナン』の脚本兼監督の青山さんにも、バレているのかもしれない。
ゲスト出演を請われたし。
それはともかく。
つまり新一は、小学生の姿に変身し、役者として『名探偵コナン』などのドラマなどに出演しているのだ。
そして、オフの時は本来の姿、工藤新一に戻ってプライベートな生活をしているのである。
「でも、明日のオフ潰れずにすんで良かったよな~」
「あぁ。快斗のおかげだな」
新一は快斗の横に並び、スタジオの出入り口に向かいながら相槌を打つ。
すると、快斗がにんまりと笑った。
こういう時のコイツは、大概新一に取って良くないことを考えている。
「折角の休みだもんな。これで気兼ねなくヤレるぜv」
「・・・は?」
「撮影中で溜まってるから、覚悟しろよ?新一クン」
意味を理解した瞬間、新一の顔から血の気が引いた。
無駄だと、頭のどこかで分かっていながらも、反論する。
「オレ、明日は読書する予定で・・・」
「誰のおかげでぷっちんゲット出来たんだっけ?」
語尾は疑問系なのに、ちっとも新一の答えは聞いていない。威圧感があり過ぎる。
こんな快斗に、今まで新一は勝てたことがない。
「か、かい・・・」
「さvそーと決まったら、時間が勿体ねーや。早く帰ろーぜ!」
ウキウキと自分の手を引っ張る快斗に、ろくな抵抗も出来ぬまま、新一は工藤邸の自分のベッドに早々とエスコートされてしまった。
休日は、恋人とラブラブで過ごしましょう、というお話。
プリン(ス)争奪戦!これにて終幕。
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