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以下本文です。
「面接はまだ始まらないのか!」
部屋の一角から怒声が響いた。
その声に押されて、沢田はそっと腕時計を盗み見た。
沢田が待合室に案内されてから、すでに4時間が経過していて吃驚した。
あの後にも何人か面接を受ける男女が入って来ていたが、どうやら部屋の人数が増えても、減ることはなかったようだ。
つまり、それだけ時間が経過した今も、面接は一向に始まっていなかったのである。
4時間も面接者を放置しておく方も凄いが、それをじっと黙って待っているほうも凄い。
今は携帯や小さな持ち歩けるコミックがあり、それで多少は暇が潰せるからだろう。
特に女性には、初対面同士でも仲良くなれる特技があるようだ。
しかし、沢田はそういったことをせず、じっとおのれの思考に沈んだままだった。
面接の不安や今後のことを考えるのに精一杯で、4時間も経っていたことなど気付かなかったくらいである。
傍から見ると、まるで銅像のようだったかもしれない。
それも沢田の性格というもので、じっと動かずに只管待つことも、あまり苦痛ではなかったのだ。
先程の怒声は、待たされてついに我慢の切れた人物が怒鳴ったようで、沢田より大きな厳つい男が、高々と拳を振り回している。
男の近くに居る女性がそそくさと席を立ち逃げ始めた。
それを目にした沢田は、損な性分な自分を嘆きながら立ち上がり、その男に近づいた。
「あ、あの~」
「なんだ!」
ぎろりと睨まれて竦み上がる。
あのパンチが当たったら、壁までぶっ飛ばされそうだ。
もし向かって来たら逃げよう・・・。
「もしかしたら、この待ち時間も面接のうちかもしれませんよ」
「なんだと!?」
「ええっと。秘書は、社長・・・この場合、工藤探偵ですが、彼の連絡とか・・・そう、例えば、鑑識の結果を待たなくちゃいけないときなんか、このくらい待たなくちゃいけなくて・・・これは、その忍耐力を試してるんじゃないかと・・・」
「・・・・・・」
最初は半信半疑で説得にかかっていた沢田も、喋っているうちに段々とそれが正解な気がしてきた。
だって、他にどう考えられるだろう。
「だから、もうしばらく待ったほうが良いと思いますよ」
分かってくれたかと期待を持って男を見るが、唇がワナワナと震えている。
どうやら、火に水ではなく油をぶっかけたらしい。
「ふざけるな!!」
ぶんっと目の前に拳が飛んで来て、慌ててよける。
頭に血が上った男がメチャクチャに拳を振り回し、女性達の悲鳴が上がった。
格別武術の心得もない沢田は、ただただ逃げ回るしかない。
「お、落ち着いてくださ・・・」
「うるせぇ、バカヤロー!オレはな~オレは!」
不意に、罵声を発しながら暴れていた男が、
何処か遠くを見るような目付きになった・・・と思うまもなく、その身体がふらりと傾ぎ地に伏した。
オレは何なのかも、ついには聞けずじまいに終わる。
沢田は吃驚しながらも、その巨体から飛び退いた。
下敷きにされなかったのは、沢田にしては上出来だった。
「大丈夫ですか?」
涼やかな声に、部屋の出入り口の方を見るとあの青年が立っていた。
やっと出てきたこの面接の主催者に、周囲の関心は注がれたが、沢田は何故男が急に倒れたのか、その原因の方が気になっていた。
「あ、あの彼は・・・」
「大丈夫。眠っているだけです」
にっこりと笑って言われた言葉に、なんとなく沢田は恐怖を感じた。
そういう術を、彼は持っているのだろうか・・・。