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以下本文です。
「よし、時間どおりだな」
沢田は腕時計と目の前に立つ邸宅を見比べて溜息をついた。
およそ地味で目立たないドジな沢田にも、もちろん取り柄が1つや2つあって、その中でも、地図さえあれば何処にでも辿りつける土地勘は、まだ、胸を張って誇れることであった。
沢田―――。
24歳の若さだが、およそ色男風ではない。
ちょっぴりたれた目じりに小鼻。薄い唇の優男。
髪も茶色くなく、日本人らしい黒髪。
身長だって高くはなく、筋肉質でもない。
服装は、まだ新しめの紺のスーツだった。
いたって平凡なこの男が、取りあえず本遍の主人公である。
沢田は目の前の表札があっているか確認してから、インターホンを押した。
ごくりと喉が鳴る。
大金持ちが住んでいそうな大邸宅である。
緊張で手が震えた。
「―――はい」
インターホンから涼しげな声で、返答があった。若い男の声だ。
「あ、あの・・・」
沢田は声まで上がっている。
「ひ、秘書の面接に参りました!」
上ずった声で一気に叫ぶ。ん?何か間違ったような・・・。
「はい。では中にお入り下さい」
「分かりました」
ぷつりっとインターホンが途切れる。
それと同時に沢田はその場にへたりこんでしまった。
中に入ると、流石に大きい玄関とホールがあり、そこに1人の青年が立っていた。
おそらく沢田より2歳ほど年下だろう。結構な美形だった。
「お名前は?」
「沢田といいます」
まじまじと見る間もなく聞かれて、反射的に答える。
「沢田さんですね。ではこちらへどうぞ」
「はい」
その青年に案内されて、沢田は広い個室に通された。
そこには、10人程の男女が思い思いに座っている。
「ここでしばらくお待ち下さい」
青年に言われて、沢田は壁際の椅子に腰掛けた。
そして、ゆっくりと室内を見渡す。
ここにいる人物たちは、多分沢田と同じ面接を受けるためにここにいるのだろう。
苛々と歩き回ったり、携帯を弄くったり、
隣同士でぺちゃくちゃとおしゃべりしている。
ここに来て、逆に落ち着いた沢田は、鞄から履歴書を取り出すと、じっとそこに座って、自分が呼ばれるのを待った。
そもそも、沢田がこの面接を受けることになったのは、それまで勤めていた会社が不況のあおりを受け、倒産したからだ。
職を失った沢田は、この数ヶ月就職活動に励んだが、これといって取り柄もない男だ。どうにも、再就職出来なかった。
が、先日叔母が、どこからともなくこの面接の話を持ってきた。
どうやら口コミでしか募集していないらしく、受ける人も少ないらしい、と。
始めは渋っていた沢田だが、叔母に強く勧められ、こうしてのこのこやって来たという訳だ。
しかし、秘書なんて、何をすりゃ良いんだ?
お茶くみ、コピー、文書の整理?
いやそれは、普通の会社の場合だろう。
見当もつかない。
そう、探偵の・・・いや、名探偵の秘書の仕事なんて!